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BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

第4話 月の都市 act.1~10


スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.1]















西暦2100年。















矢樹 「1969年7月、アポロ11号が月へ向かった。
そして小型の月着陸船が月面に着陸。
宇宙飛行士ニール・アームストロングとオルドリンがその足で月の地表を歩いた。
さらに宇宙飛行士が直に月面の土壌の採取や写真撮影を行った。

月には空気が無い。その為、日の当っている部分とそうでない影の部分は温度差が激しい。
また宇宙線や太陽風などの放射線が大量に降り注ぐ。人間に取っては住みにくい世界だ。」

矢樹は珍しく、スポルティーファイブのメンバー相手に講義をしていた。場所は[教室]。

矢樹 「非公式だが、
このアポロ11号と地球との交信記録の中にUFOの目撃の様子があると広く世間一般では言われて来た。
それによると……、ニール・アームストロングが月に降り立った時、遠方のクレータの縁に大きな宇宙船が着陸していたとされる。」

そこで神田は手を上げた。

神田 「それ、俺も観ました。
テレビの『私は見た!!UFOスペシャル・月面緊急特集!!』でしょ?!」

矢樹 「この話は確かに後になっていろいろと尾ひれが付いて、現在テレビなどで紹介されるようなゴシップ的なレベルの話になった。
確かにその当時、ロケットから切り離された破片等の報告が湾曲されて一般に伝わり、未知の飛行物体発見の話にすり替わったりしていた。」

神田 「なんだ。じゃあ、やはり嘘だったんだ、その話。」

矢樹 「いや、まんざら嘘でもない。」

それを聞いてスポルティーファイブのメンバーは驚いた。

矢樹 「ここからの話はトップシークレット扱いになる。」

矢樹はそう言って、教壇に仕組まれた装置を操作した。
それは教室の扉をロックして外部と遮断した。
また前方の黒板はスクリーンに変わった。もともと擬似で古い黒板が映されていただけだ。






矢樹 「今からNASAの秘蔵の交信記録とフィルムを見せよう。これは一般には公開されなかったシロモノだ。」

神田 「すげーーーーーー!!!そんなものが今から見れるわけ?!
俺、スポルティーファイブに入ってて良かった!」

委員長「………………。」







ます、当時のアポロと地球の管制センターとの交信の録音が流された。

「こちらアポロ11号。月から報告する。
遠方にクレーターが見える。
その縁には我々とは別の宇宙船がいる。信じられないがその宇宙船は大変ヘビーだ。
ヒューストン、あれが見えるか?」

「ああ、映像には確かに何か映っている。いいか、これからの通信は非公開だ。極秘扱いになる。」

「あれは何だ?やはり宇宙船なのか?」

「わからない。こちらでは映像がやや不鮮明だ。だが金属製の何かが映っているように見える。着陸脚らしき物も確認できる。」

「馬鹿でかい。あれの大きさはどのくらいだ?」

「正確にはわからないが……、クレーターの直径と同じくらいだ。全長2000メートルぐらいじゃないか?」

「あれは地球製の宇宙船なのか?我々とは別の国の?」

「それは考えにくい。あのような巨大な物が作られている筈がない。そのような情報はこれまで入っていない。」









スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.2]


矢樹 「以上がのちに”空白の2分間”と呼ばれた通話記録のオリジナルだ。」

次に矢樹は画像を見せた。
パッと見はどこにでも見かける見慣れた月面の映像だった。
暗黒の宇宙とクレーターがいくつも存在する月面が映っていた。
だがそのクレーターの縁には巨大な何かが映っていた。
それは円盤型で、はっきり人工物のようなディテールが存在した。

神田 「デカい!」

矢樹 「大変大きな物だ。おそらく地球製では無い。」

神田 「すると……、以前からUFOは地球に来ていた?」

矢樹 「異星で製造されたUFOが地球にやって来る為には長い距離を飛行しなくてはならない。
だがいまだ我々は光速に近いスピードで飛ぶ宇宙船を造る事は出来ない。
UFOにしても同じで、光速に近いスピードを出せる宇宙船など存在しないのでは無いかという予想が一般的だ。
その為UFOが実際に地球にやって来る確立は低いとされている。」

豪 「完全に自動化されて、生命体の乗っていない飛行体なら来れるんじゃないですか?」

矢樹 「それは可能だ。時間さえかけさえすれば、やって来れる。
現在その手のUFOを否定する根拠は無い。」

豪 「じゃあ、UFOは実在するんですか?」

矢樹 「最近月でUFOが目撃されるようになった。」

クリス 「月で?」

矢樹 「月には現在大きな採掘基地と研究基地がある。
採掘基地はアルミニウムなどを採掘する工場だ。
そこで働く作業員がUFOを目撃した。」

クリス 「UFOを?どんな物ですか?」

矢樹は次の画像を見せた。月面に建てられた採掘基地が映っていた。それは平べったくて横に広がった建物だ。巨大だが月面なので他に比較する物が無く、大きさの見当は付きにくかった。

矢樹 「これが採掘基地だ。全長約2キロの建造物だ。」

矢樹は次の画像を見せた。



それは採掘基地から少し離れた位置の映像で、そこに巨大な円盤型の物体が映っていた。それは明らかに人工物だった。

神田 「すげーーーーーー!何これ?」

クリス「これは本当に異星人のUFOですか?」

矢樹 「正体はまだ不明だ。だから我々に調査依頼が来たのだ。」

クリス「この物体の正体を我々で調査するのですか?」

矢樹「そうだ。」

豪 「どこからの調査依頼ですか?」

矢樹 「それは言えない。ただ我々はその依頼に従わねばならぬという事だ。」

豪 「クライアントはブラックガバメントですか?」

矢樹 「それも言えない。ただブラックガバメントからの依頼であろうとなかろうと、誰かが調査しなくてはならない。
そのUFOは巨大で、直径は1キロに達するのでは無いかと思われる。
最近、あの基地から頻繁に目撃報告が入るようになった。
UFOのディテールから見て人工物である事は確かだが、その飛来目的は不明だ。」

豪 「相手は武装してますか?」

矢樹 「良い質問だ。
我々に調査依頼が来たのもその辺の事を踏まえてだろう。
相手が武装していた場合、我々なら少しばかり対処できるからな。」

神田 「”少しばかり”?」

矢樹「そう、”少しばかり”だ。
我々は月では未知の相手からの攻撃を常に警戒しながら調査活動をする。必要な時にはすぐにシールドを張る。」

クリス 「でも、異星人が友好的交流を望んでコンタクトを試みて来たのかも知れません。」

矢樹 「…だといいがな。」

矢樹は少し皮肉を込めてそう言った。







スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.3]


矢樹 「これまで地球上では2つの異なった政府間が接触する時、何がしかの問題が必ず起こって来た。確かに友好関係にある国も存在するのは事実だ。
だがそれには…、

文化・風習・習慣が似ている事。
利害関係が少なくとも少しは一致する事。
お互いが相手を尊敬し、利用できる事。
2国間でトラブルが起きてもすぐに軍事行動に訴えない事。

…等の条件が備わっている必要もある。
口で言うのはたやすいが…、友好とは実に難しいものなのだ。」

クリス「…しかし!」

矢樹 「安心しろ、少なくともこちらからは攻撃しない。
もっともこちらの身が危険になればその限りではないがな。」

委員長「そんな言い方って…、最初にもっと友好的なコンタクトの手段を考えないんですか?」

矢樹 「相手は…、[レイド]かも知れないからな。」

クリス 「何ですって?!」

クリスや他のメンバーはその言葉に驚いた。

矢樹 「相手は”異星人”とする説ももちろんある。
だが、考えても見ろ。
何万光年も先の宇宙から、光速に達し得ないスピードの宇宙船でここに到達するには何世代にも渡って飛行を続けなくてはならない。
現実的にはそのような飛行方式の宇宙船が地球に到達する可能性は極めて低い。」

クリス 「だからレイドと……。」

矢樹 「そうだ。
だが、レイドも1つの可能性に過ぎない。本当の所は行って調査しなくてはわからないのだ。」

クリス「……………。」

矢樹 「まず、月へ行こう。そして調査するのだ。」







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数日前…………、




ブラックガバメントが矢樹と郷田指令に連絡して来た。
いつものように通信画面には黒いシルエットが表示されるだけで、相手が誰なのか特定する事は出来なかった。

ブラックガバメント「月を調査してくれ、郷田指令、矢樹博士。
これまでの記録から判断すると、月とレイドとの関係は否定しきれない。
彼らは月から飛来しているのかも知れない。
今の所、月は地球より隠れるには適した場所だと思われる。我々の監視の目が行き届かないからだ。月の峡谷・クレバスなどは物理的にもカモフラージュに適した場所だと言えるだろう。」

郷田指令「月とレイドに関係があるというのは確かなのですか?」

ブラックガバメント「いや、核心的な証拠は何も無いし、まだ何もわかっていない。
我々は調査報告を元に分析しているだけだ。
その分析から、月とレイドに関係があるかも知れないという結論に達した。
例の”UFO目撃事件”が発端だがね。」

矢樹 「最近月で起こった大型UFOの目撃事件ですな。
今、月に滞在している人達の意見は?」

ブラックガバメント「月にいるのは4名のみだ。行って直に聞いて見てくれ。
これまでの調査報告は先に送るがね。

矢樹博士、承知の通り、月の開発は遅れている。
月面上で主に可動しているのは[国際共同研究基地アクエリアス]と[オリハルコン採掘基地]だけだ。
後は全て無人の小規模の基地と観測施設があるだけだ。
現在4名以外には誰も居住していない。
先ほども言ったが、その為に月は絶好の隠れ家と化している。
4名はそれそれ自分の仕事追われていて、月の監視の仕事はしていない。

ところで……、
”月の都市”という噂話を聞いた事はあるかね?」

矢樹 「ああ、聞いた事はある。月に異星人の都市があるとか?ゴシップだと思っていたが。」

ブラックガバメント「実在する可能性はあると思うかね?」

矢樹 「わからない。」

ブラックガバメント「では、それも調査してくれ。」

郷田指令「なぜです?」

ブラックガバメント「UFOの存在とともに、”月の都市”も以前から存在すると噂されて来た物だからだ。
だが存在したとする証拠は何も見つかっていない。
今こそ調査すべきだ。いままで本格的にそれを探す調査は行われなかった。
頼んだぞ。」

矢樹 「……。」

その後、ブラックガバメントはログアウトした。







スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.4]


郷田指令「”月の都市”とは何かね?」

矢樹 「以前から、月面上に地球人以外が造った都市があるのでは無いかと言われて来た。
ずいぶん前にコンタクティー(異星人とコンタクトしたという民間人)が月に都市があるだの、空気があるだのと言い、それが事のほか世間一般に広がったのだ。
ブラックガバメントに言わせれば、それがもしかするとレイドの”向こうの世界”かも知れないという意味だろう。」

郷田指令「それで、実在の可能性はどうなのかね?その”月の都市”は?」

矢樹 「さあ?行って見て現物を発見しない限りは何とも言えない。あったという証拠は存在しないのだ。過去にゴシップ記事のような不鮮明な写真が2~3枚新聞に載ったぐらいだ。」

郷田指令「わかった。とにかく月へ行ってみよう。」









こうしてレッドノアは月へ行く事になった。
調査の為、ある程度の期間月に滞在する事になるだろう。
レッドノアは一度ドッグに入り、気密テストを受けた。
それと同時に荷物の積み込み作業が始まった。
燃料、新しいバッテリー、武器、弾薬、調査機材、ロボット……。
通常の食料も3ヶ月分は詰め込まれた。それ以外に保存食・非常食も常時積んであるので、緊急時には長期の滞在も可能だ。






数日後、準備が整ったレッドノアはその巨大な船体をゆっくりと持ち上げ、大空へと旅立った。

もちろん、スポルティーファイブのメンバーも乗せて…………。







神田 「すげーーーーー!斜めになって上がって行くぜ!」

レッドノアは船体を45度傾斜させて上昇していった。そしてそのまま大気圏を脱出した。
そこまでの所要時間は約1時間。時間をかけた分、重いGは乗員には感じられなかった。
平時扱いなのでゆっくり登るにこした事はない。
またレッドノア内部には人工重力発生装置があった。船が傾斜しても乗員の体は床に引き寄せられていた。






大気圏外へと出たレッドノアは一路月への進路を取り、やがて月の周回軌道に乗った。
その後は月面へと降下し、月面基地[アクエリアス]に向かった。






『月面基地アクエリアス』

ここは世界各国が共同で出資して建設した国際基地だった。
内部の施設ではさまざまな研究がなされていたが、その主な物は月の資源の効率の良い採取方法の研究だ。アルミニウム・チタン・水素・酸素・鉄・水等利用可能な資源を取り出す方法を研究していた。

この基地はドーム型でクレーターの地形を利用してその中に建設された。
基地内は大きないくつものフロアを持つ。
各フロアの中には各国が出資したそれぞれの研究施設が存在した。
小型の施設も多く、小さなカプセルの中にその研究の為の装置一式が詰まっていた。
この方法だと比較的低予算で月面での研究が可能なのだ。
そのカプセル型の研究施設がここには何個も並んでいた。

だが、基地中に住む人間はたったの2名。後は全てロボットだった。
どうしても生物が住むのと無生物が可動するのとではその費用に差が出てしまうのだ。
生物が住むと食料がいる。トイレ、バスルーム、酸素、暖房、いろんな物がいる。だが、ロボットだとメンテナンスが要るにしても、基本的に電力だけで動く。

ロボットには、ヒューマノイド型の”人間のする作業ならなんでもこなす”凡庸タイプと、まったくの箱型やクレーン型のロボットや、洗面器を裏返したような形のロボットまでいろんな種類が基地内にいた。そこはさながらロボットの博覧会だった。




レッドノアの船体は、その基地の宇宙船専用のハンガーデッキに降り立った。
レッドノアは今までこのデッキに降り立った宇宙船の中では一番大きい。
正確に言うと、着地してはおらず空中に留まっているのだが。
船体は大きくデッキからはみ出ていたし、柔なデッキは着陸すると潰れてしまいそうだったので。

月の重力が地球の6分の1という事もあってか、そのデッキの骨組みは実に細かった。
デッキからはエアロック付きのチューブ状の通路が飛び出して来た。
そしてレッドノアの船底にあるエアロックにドッキングした。






スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.5]


矢樹博士と郷田指令がその通路を通って基地へと降りた。
さっそく基地の研究員であるロバートとオスカーが2人を出迎えてくれた。
ロバートは40過ぎぐらいだが、顔付きは健康そのもの。
オスカーは26歳ぐらいで、若い学生風の男。プラスチック製の黒ブチの眼鏡をかけていた。

ロバート「やあ、ようこそお越しくださいました。
私が主任研究員のロバート、横は助手のオスカーです。」

オスカー「ようこそ、皆さん。遠路はるばる。」

4人は握手を交わした。
ロバートとオスカーは、郷田指令と矢樹博士を広い応接室のテーブルへと案内した。
そこはお客をもてなす為の客間で、丸い大きなテーブルと階段状のベンチがあった。






ロバート「ここは共同研究施設です。
研究はとにかくありとあらゆる事をしています。
たいていは企業や大学から依頼が来ます。それをここで実験して結果を送り返すのです。」

オスカー「設立時にはいろんな国が協力したのですが、今は事実上少しさびれています。」

郷田指令「さびれている?」

ロバート「研究には資金が必要です。
だが、研究しても実際には資金が回収できないようなものばかりです。
そう、”実り”が少ないのです。
だから各国とも徐々に手を引いていきました。」

オスカー「それはアポロの時代には想像すらしなかった事です。
いや、一部の関係者は当時すでにその事を知っていたのかも知れませんが……。」

ロバート「たび重なる予算削減で人々は月から去って行きました。その結果、ここには人が住みたがらなくなった。
建設時は賑やかだったのに。
その頃は工事関係者の居住区は大きくて、ゆうに100名もの人間がここで寝泊り出来る物だったのです。レストラン・映画館・レクリエーション施設・浴場を備えたかなり金のかかった立派な者でした。
その後彼らが去り、代わりに私達を含めた研究員とその家族がしばらく住んでいたのですが……、ここの環境に合わず皆去って行ったのです。」

オスカー「そう、長くて半年持てばいい方でした。誰もここには長居したがらないのです。」

ロバート「ここは遊園地や観光施設を作った方がいい。
皆、短期間の滞在なら喜びます。
重力が6分の1ですし、体の疲れも取れます。静養に来るのにはちょうどいいですね。」

オスカー「だが長くいれば苦痛でしかありません。
黒い空、真空の宇宙、静寂。
それに6分の1の重力に長くいる事は出来ません。身体に悪影響が出るのです。
ですから毎日トレーニングルームに入って筋力を維持しなくてはなりません。
これがけっこう大変です。短調な生活に拍車をかける。」

ロバート「今では私達変わり者2名がここに残って研究を続けているだけです。皆帰りました。」

矢樹 「なるほど、実に大変な仕事ですな。」

ロバート「研究有ればこそ単調な生活も我慢できます。
それさえあれば退屈しませんので。」

郷田指令「ところで、我々がここへ来た目的なのですが、例のUFOについて知りたいのです。」

ロバート「ああ、あれはオリハルコン採掘基地で目撃されたのです。ここではキャッチしていません。」

矢樹 「キャッチしていない?」

オスカー「ええ、そうです。全天空レーダーの記録には何も映っていません。その時は警報も出なかった。」

矢樹 「ではそのUFOは誤認ですか?オリハルコン採掘基地の。」

ロバート「さあ?よくわかりません。調べてないので。
でも、あの基地から送られて来た画像は見ました。それらしき物は確かに映っていました。
画像解析しましたが…、結果はよくわかりませんでした。」

矢樹 「よくわからないとは?」

オスカー「地球にもその画像を送って解析を依頼しましたが…、そこに物体が本当に存在しているという確証までは得られなかったのです。データが少なすぎて。
月には対象物が少なく画像からでは大きさ等が測定しにくいのです。
問題の画像にはUFOの影が地面に映り込んでいませんでした。位置的に映り込まなかったのです。
ですからUFOの大きさも推定でしか出せませんでした。
それにUFOが高速で移動に入った瞬間なのか、画像はブレていましたし。」

矢樹 「そうですか…。」







スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.6]


郷田指令「では、オリハルコン採掘基地に行って直にその話をお聞きしたいですね。」

ロバート「ええ、”直に”行ってあげてください。喜びます。
我々も含めて、月に滞在している人間は他の人と直接会う事は少ないのです。」

矢樹 「ネット上で会えないのですか?
ここにはネットにつながれた”バーチャルリアリティーシステム”は無いのですか?」

ロバート「あの擬似世界の事ですか?
ありますよ。
でも私はどうもあれになじめません。見掛けは確かに本物そっくりでも、なじめないのです。
ほら、3DCGを使ったリアルなゴルフゲームがあるでしょう。
私はゴルフが好きなので、ここでは仕方なくあれをプレイしたりもしますが……、本物のゴルフにはかないません。
正直なところ早く地球に帰って本物のゴルフを楽しみたいですね。
本物のコースに出て日光を浴びるのと、ゲームの中にいるのとではやはり全然違いますから。」

オスカー「偽物は偽物なのです。いくらやっても、満足はできない。
ここにいるとそれがよくわかるのです。」

矢樹 「……。」

郷田指令「…ところでオリハルコン採掘基地についてもう少し教えていただけませんか?」

ロバート「わかりました。
もちろん”オリハルコン”とは名ばかりです。あれは単にそう命名されているだけです。
”オリハルコン”とは古代ギリシャ・ローマ世界の文献に登場する合金の名前です。
そのようなおとぎ話の金属がここで採掘されているわけではありません。
主にやっているのはアルミニウムの原料の採掘です。」

矢樹 「ボーキサイトですか?」

ロバート「まあ、それと似たような物です。斜長石から取り出します。その後、炭素や塩素と化合させてアルミニウムを作り出します。」

オスカー「オリハルコン採掘基地にも2名が常に滞在しています。夫婦です。」

郷田指令「夫婦?」

ロバート「ええ、レイチェルとアイクの2人です。
事実上の夫婦です。この任務に付いてから急速に仲が深まったそうです。
婚姻届はまだ提出しておらず、地球に戻った時手渡しで役所に提出したいとの奥さんの希望があるそうです。だからファックスでは提出しないのだそうですよ。」

オスカー「新婚旅行はマイアミに行きたいそうです。全ては地球に帰ってからのお楽しみだそうです。」

郷田指令「いつ、地球に帰られるんでしょうか?」

ロバート「さあ?あと半年で契約が切れるとか言ってました。
でも宇宙開発機構がすんなり返してくれますかどうか。」

郷田指令「と、言いますと?」

ロバート「後任が見つかればいいのですが…。
なにせここに長くいるには特殊な感覚の持ち主でないといけません。
退屈で変化のない日常と黒い空と真空の世界に耐えられる神経の持ち主でないと。
地球では比較的高額な給与につられて応募者は山ほど来るそうですが、ほとんどが適正テストで落とされます。」
 
オスカー「人間”退屈”には弱いですから。あそこは特に退屈です。ここと違って。」

ロバート「研究している我々はマシですが、彼らは毎日短調な作業が続きます。」

オスカー「でも最近、変わった事があったらしいですよ。それで単調も崩れている筈です。」

矢樹 「変わった事?」

オスカー「”出る”らしいんですよ。あそこの基地には。」

郷田指令「”出る”?」







スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.7]


その後、郷田指令と矢樹博士は、ロバート、オスカーの2人と別れ、オリハルコン採掘基地へ向かった。
オリハルコン採掘基地にはアクエリアスよりももっと大きな宇宙船用のデッキがあった。地球との往復をしているタンカーが離発着する為のデッキである。その為、巨大なレッドノアの船体がそこにすっぽりと納まった。




基地には矢樹・郷田指令、そしてスポルティーファイブのメンバーが向かった。
月では人に会う事が喜ばれるのでクリス達も同行する事になったのだ。




そして、基地の[コントロールルーム]へ案内された。

アイク「こんにちは。私が当基地の責任者アイクです。」

若くてハンサムな男性が現れた。若さゆえにエネルギッシュな部分も見受けられた。

郷田指令「こんにちはアイク。地球から来ましたノアボックスです。」

アイク「会えて、とても嬉しいです。
最近はめったに他の人と会わないので。
モニターやテレビ電話で話すのとまた違いますからね。」

アイクはとても嬉しそうだった。

アイク「禁じられている事が多いのですよ。ここの生活は。
それも契約の内に入ってますが。」

アイクは皆に席をすすめた。

アイク「まあ、遠い所ようこそ。かけて楽にしてください。
ここは地球で最大のアルミニウム採掘基地です。」

郷田指令「そうですか。実に素晴らしい基地ですね。
ところで最近変わった事がおありだとかお聞きしたのですが。」

アイク「どこでそれを?」

郷田指令「幽霊を見たと聞きました。アクエリアス基地で。」

アイク「ええ、そうです。見ました。でも見たのは私ではなく、レイチェルが見るんです。それも何回も。」



すぐにレイチェルが呼ばれた。レイチェルはお客に出す飲み物と食事を持って現れた。

レイチェル 「レイチェルです。こんにちは。ようこそおいでくださいました。」

神田は驚いた。レイチェルは何となくアンナに似ていた。同じようなタイプの美人だった。
それはアンナが成長するとこんな美人になるんじゃないかと思わせた。
レイチェルは20代半ばと言った感じのまだ若い女性だ。

郷田指令「レイチェルさん、幽霊を見たと聞きました。その時の事を詳しく話していただけませんか?」

レイチェルは食事を皆に配り終わると……、

レイチェル 「あれは、この基地で1人でいる時でした。
この建物内の広い採掘場に行った時に起こりました。
そこは強い日射を避けるための天上パネルが全面に張られていました。
私はその内部の通路を1人で歩いていました。その時、通路の先の方に何か白い動く物が見えました。」

アンナ「……………。」

レイチェル 「出会った時は恐ろしくて………。でも、それはその後何度も現れました。」

郷田指令「何度も?」

矢樹 「それはどんな格好をしていましたか?詳しく話していただけませんか?」

レイチェル 「まるで普通の人間のように通路に立っていました。
夜勤の私以外はそこには誰も居ない筈でした。
私が見たのは何か異星人のような格好で立っていた男性です。
変わった服装だったので、言葉ではうまく言い表せません。
もちろん基地内ではそのようなユニフォームはありません。
それは白いタキシードに似たデザインで、胸元や袖に金色の飾りをたくさんあしらった物でした。
何か特別な正装か制服のようにも見えました。
その男性の年齢は30代ぐらい。髪はブロンドかブラウン。でも、光の加減で本当は何色なのかよく分かりませんでした。」

矢樹 「男性の顔は分かりましたか?」

レイチェル「堀が深くて、欧米系の顔付きでした。
それに彼は宇宙服を着けていませんでした。ヘルメットも被ってません。」

矢樹 「真空状態でですか?」

レイチェル「ええ、そうです……。」

レイチェルはその時の体験を思い出して顔に手を当てた。
そして小刻みに震え始めた。
よほど恐ろしい体験だったのだろう。








スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.8]


そこで郷田指令は一呼吸入れようと思った。

郷田指令「レイチェルさん、疲れているのではありませんか?」

レイチェル「ええ、少し。」

矢樹 「このような特殊な閉鎖空間では幻覚症状に陥りやすい。
地球上ではここの適任者を選ぶ適正シミュレーションテストの際、かなりの者が幻覚を見たとか。」

レイチェル「ええ、そうです。」

アイク「レイチェル、ここはいいから部屋に帰ってもう休め。」

レイチェルは顔から血の気が引いていくようにも見えた。

レイチェル「じゃあ、そうさせてもらうわ。」

そう言って彼女はリビングルームから出て行った。心なしかフラフラとしている。

アイク「レイチェルは最近ノイローゼ気味なんですよ。」

郷田指令「そうですか。
ではその幽霊は”うちの若者い者達”に見はらせましょう。」

神田 「”うちの若者い者達”?」









それで、クリス達がその基地の見回りをする事になった。

神田 「月まで来て幽霊退治か?」

クリス「2班に分かれよう。
僕とアンナ。豪君と神田君と委員長。」

神田がさっそくそれに突っ込みを入れた。

神田 「待てやクリス!おんしゃ(お前)、さてはアンナちゃんを独り占めしようとする気か?」

委員長「……………………。 (>_<) 」

委員長は神田の腕を引っ張った。

しかしクリスは、「いいよ、じゃあ神田君は僕らといっしょに来てくれ。」と言った。

委員長「は?」



こうしてクリス・アンナ・神田と委員長・豪に分かれた。

委員長と豪にはアイクが同行。クリスらにはレイチェルが同行する事になった。







皆は宇宙服を着けた。クリス達は持って来た自分達専用の宇宙服を着込んだ。
そうしないとサイズが合わないからだ。
クリスは比較的長身、神田もそうだった。
だがアンナは背が低い。豪と委員長はそれよりやや高いがやはり小柄である。
フリーサイズの宇宙服ではやはり着にくいのだ。







宇宙服を着け終わって皆、基地内の通路を歩き始めた。

レイチェル「皆さん、足元に気を付けてくださいね。」

神田 「はいはい~♪。レイチェルさん!!」

神田は嬉しそうだった。




基地内はまるで飛行船の内部みたいな感じだった。
”巨大なテント”とでも言えそうな細い骨組みのみで作られた建造物だ。
内部には細いタラップのような通路が張り巡らされていた。さながら”つり橋”といった感じだ。
地球で言えば、やわな造りだがここではこれで充分だとか。
でもクリス達はまだ月に慣れておらず、これでは強度不足に思えて、大変怖かった。
それでもレイチェルの案内でしずしずと基地内の探索を始めた。




そんなおり、クリスは別のタラップの先に人影を見たような気がした。

クリス「誰だ!」






スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.9]

クリスは1人そこへ歩いて行った。
その結果、クリスだけ皆と別かれてしまった。他の者もその時はクリスがそんなに遠くまで行くとは思わなかった。

だがクリスはその影を深く追って行き、一人離れてしまった。
まもなくアンナがその事に気付き、心配してすぐにクリスの後を追ったが、クリスの方が足が速った。
クリスは謎の白い人影を追って走り出していたのだ。
それにアンナは宇宙服と月の重力に慣れておらず、歩くのが遅かった。






クリスは白い影が消えた地点で周りを探したが…、誰もいなかった。
宇宙ヘルメットのシールド越しに”ただっぴろい”真空の空間が見えるだけだった。
そこへアンナがやっと追いついた。

アンナ「どうしたの?」

クリス「確かにいる。何かが。」

アンナ「見たの?」

クリス「ああ、チラッとだけど。」

アンナ「それはどんな感じだった?」

クリスは白い人影を見たと話した。
アンナがこれまで幾度と無く遭遇して来たあの男の服装も白だった。
しかし、”あの男”がここにいる筈は無い。ここは月なのだ。







その後、辺りを探索したものの手がかりになるような物は何も得られず、皆は基地の[コントロールルーム]に帰った。

クリス「あれが”幽霊”の正体なのだろうか?」

考え込むクリス。するとアイクが、

アイク 「実は………、もう1つ不思議な物があるんです。地球にはまだ報告してませんが。」

クリス 「もう1つ不思議な物?なぜ報告してないんですか?」

思わずアイクとレイチェルは顔を見合わせた。
それで、その事には何か意味があるのだとクリスは悟った。

アイク 「見ればわかります。」





不思議な物……、
アイクとレイチェルはそこを[禁断の場所]と呼んでいた。
そしてその場所に案内してくれる事になった。

それはこの採掘場からかなり離れた所にあるらしい。
クリス達はスポルティーファイブの発進許可を特別に受けて、その機体で向かった。
アイクとレイチェルもそこに同乗した。





”それ”は月のクレバスの裂け目の中にあるらしい。
そのクレバスは地球で言えばゆうに巨大なダムぐらいの大きさがあった。
その奥には広い空間が開けているらしい。

クレバスの周りをいくつもの大きなクレーターと円錐型の山々が覆っていた。
そこはまるで外界から隠されるように存在している場所だった。





スポルティーファイブの機体は低空で飛び、そのクレバスの奥へと下降して行った。
アイクの指示通り飛んだ。
すると、目の前に突然別の”採掘場”が現れた。
それは露天掘りのすり鉢状の窪地と、その周りにある工場のような施設で成り立っていた。
その工場の部分はステンレス製のような波板の鉄板がいくつも組み合わされて造られていた。
近代的な施設のようだ。
露天掘りの部分は、横穴や、バスタブみたいな形に掘られた小型の掘削跡がたくさんあって、それが複雑に入り組んでいた。






スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.10]


クリス達は上空をゆっくり旋回した。

アイク 「これは何に見えますか?」

神田 「”掘削施設”じゃないの?古くて使われなくなった……。」

アイク 「そうです。だが、これは我々の施設じゃない。」

豪 「と、言いますと?」

レイチェル 「ここに来てからこれを発見したんです。」

神田 「それって、どういう意味?」

アイク 「つまりこれはもともとこの場所に存在していたんです。
いつ頃からかはわかりませんが、少なくとも180年ぐらい前に建てられたのでは無いかと思います。」

豪 「180年前?」

レイチェル 「つまりアポロが初めて月に来た時には、すでにこれが存在していた可能性があるの。」

クリス「……地球外生命体、つまり異星人が造った物とでも?」

アイク 「さあ?そこまではわかりません。降りてみますか?ご自分の目で確かめられては?」

クリス「降りて?降りても大丈夫なんですか?」

アイク 「ええ、宇宙服を着ていけば問題ありません。
すでに私達はここに何度か降りて中に入った事があるんです。
中は無人で、放棄されてから何十年も経っているようです。
建物内の電燈は今でも点きます。それはこの施設の太陽電池パネルのような物から供給された電力によります。
それに、内部には特別のセキュリティーシステムは存在しません。
突然扉が閉まったり、中に閉じ込められたり、という事はありませんでした。」

クリス 「すでに詳しく調査されたのですか?」

アイク 「いいえ。そんな時間は取れないし予算も下りないので、調査と言える程のものはしてません。
でも何回か足を運んで、中を見てみたのです。
そして私が見た限りでは……、
基本的には我々と同じですよ。ここにいた人々は。
サイズも格好もそんなに変わらない筈です。」

委員長「まあ、異星人の写真でも残っていたんですか?」

アイク 「残念ながら、それはまだ見つけた事はありません。あれば世紀の大発見になるかも知れませんが、残念ながらまだ見つけられていません。
でも施設内部は広大です。全てを調査すれば、あるいは見つかるかも知れません。
しかし、写真がなくとも相手の身長や格好はその内部に残された備品のサイズを見れば明らかです。我々にはちょうどいいサイズです。」

クリス「まだ全部は調査してないのですね?」

アイク 「ええ、そうです。
[コントロールルーム]らしき場所がありましたので、主にそこを調査しました。
そこに置かれたままになっているコンピューターはまだ生きています。電源さえ入れれば動きます。しかし、データーは読み取れません。
まず、コネクターが違う。言語も信号もプログラムも違います。
電圧やサイクルも違うかも知れない。
ただ、現地で生きているコンピューターはそのパネルスイッチから簡単な操作は出来ます。」

レイチェル「ボタンには絵や記号が入っている物がたくさんあるの。それでコンピュターを通して、建物や施設内のドアの開閉などは操作できるわ。」

クリス「そうですか…。」






クリスは降りてみる事にした。
宇宙服を身に着けて、機体から地表に降り立った。
念のため、スポルティーファイブ専用の護身用の銃を宇宙服のポケットに入れておいたが。







その施設は何か異様な雰囲気がした。デザインの奇妙さというか…。
とにかくそれは言葉では言い表せない。

建物に近づくと、やはり人とまったく同じ身長の生物が利用していた事が見て取れた。
ドアの大きさや窓のサイズは地球の建物と変わりなかった。

神田 「……。」






不意にトンネル状の通路の先に異形の物体がチラッと見えた。
光を反射したので目に付いたのだ。
皆は寄り道してそこへ行って見る事にした。

そこにあったのは斜めに立てかけられた円盤型の乗り物の残骸だった。
それは壁際に平然と置かれていた。
大きさは直径10メートルぐらいだろうか?
これは今回ノアボックスが調査対象としているUFOとは大きさが違った。ここにあるのは小型の物だ。
どうやら、以前クラッシュしたようで、その物体は変形して潰れていた。
機体の一部が破裂するように外側にめくれ、内部の機械がのぞいていた。

神田 「UFO?!!!」

アイク 「ええ、だぶん。日本では一般的にそのように呼ばれてます。
確かに、以前は高速で飛んでいたのかも知れませんが……。
でもこれはただの”乗り物の残骸”ですよ。」

アイクは平然と言った。
おそらくアイクも最初見た時は驚いたのだろうが、やはり回数を重ねると見慣れてしまうようだ。
神田はその物体を目をシロクロさせながら見ていた。地球の物とは違う何かがそこにあるようだった。




またその採掘場には鉄骨の骨組み、足場、コンプレッサーとホース、クレーン車などがそのまま放棄されて残されていた。
どれも、地球の物とは違ったデザインだった。




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